『自己との対話』ビル・エヴァンス

『Conversations With Myself』Bill Evans
収録曲
- ‘Round Midnight
- How About You?
- Love Theme from ‘Spartacus’
- Blue Monk
- Stella By Starlight
- Hey There
- N.Y.C.’s No Lark
- Just You, Just Me
- Bemsha Swing
- A Sleeping Bee
Personnel
Bill Evans (p)
録音:
1963年2月6日、2月9日、5月20日
レーベル:Verve
ディスクガイド
Bill Evansといえば、繊細なタッチで織りなすピアノ・トリオのイメージが強いのかも。ところが、この『Conversations With Myself』は、そんなイメージとはかなり違う実験作。なんと最大3台のピアノを多重録音して作り上げたアルバムです。
普通、ジャズといえば「その場での各楽器のインタープレイ」が魅力ですが、ここではBill Evans自身が自分の演奏に“応答”しながら即興を重ねていきます。ベースのように低音で支えるパート、コードバッキングの役割、そしてアドリブ……まるで3人のBill Evansが会話しているかのよう。これがタイトルの「Conversations With Myself(自己との対話)」の由来と思われます。
ただし、聴き心地は一筋縄ではいきません。曲によっては絡み合うフレーズが複雑で、いわゆるジャズ的なグルーヴ感を期待すると戸惑うかもしれません。ですが、そこには他のアルバムでは味わえない知的なスリルがあります。
制作には相当な苦労もあったようです。当時のプロデューサーCreed Taylorとの試みはジャズ界でも「邪道」とみなされる危険がありましたが、Bill Evansは「これは gimmick(ごまかし)ではなく、正直な表現だ」とライナーノーツで強調しています。そんな強い意思を感じられる点でも、このアルバムは特別な存在です。
ちなみにこのアルバムは1964年のグラミー賞 最優秀ジャズ・インストゥルメンタル・アルバム部門を受賞。批評家からも高い評価を得ていたようです。
初心者にオススメできる?
前述のグラミー賞受賞もあり、お店で「名盤」としてよく並んでいるのを見かけることもありますが……正直、Bill Evans初心者にはおすすめしません。トリオやソロピアノの定番作と比べると、聴きやすさよりも実験性が前面に出ています。
ピアノのみの演奏(=ソロピアノ)によるジャズが聴きたいということであれば、「Bill Evansのソロピアノ演奏まとめ」のページを参考に、多重録音ではないソロピアノの演奏が収録されているアルバムがおすすめです。
Pick up!!
4.Blue Monk
Thelonious Monkの代表的ブルースナンバー。普段は繊細なタッチが多いBill Evansですが、この曲ではわりと泥臭いフレーズも聴かせてくれます。貴重なBill Evansのブルース・フレーズ教材です。
7.N.Y.C.’s No Lark
こちらはBill Evansのオリジナル曲。タイトルは、1か月前に亡くなったジャズ・ピアニストSonny Clarkへのオマージュで、Clarkの名前を並べ替えてつけられています。内省的で、どこか哀しみを帯びた旋律は、まさに「自己との対話」というアルバム全体のテーマを象徴する1曲。