『アローン(アゲイン)』ビル・エヴァンス

『Alone(Again)』Bill Evans
収録曲
1.The Touch Of Your Lips
2.In your Own Sweet Way
3.Make Someone Happy
4.What Kind Of Fool Am I
5.People
Bill Evans (p)
録音:1975年12月6日〜8日
レーベル:Fantasy
ディスクガイド
Bill Evansのソロピアノ・アルバムといえば、1968年の名盤『Alone』を思い浮かべる方も多いと思います。その続編のようなタイトルを持つこの『Alone (Again)』ですが、実際に耳にしてみると、前作とはかなり違う印象を受けます。
前作『Alone』はタイトル通り、孤独や静謐といったニュアンスが色濃く漂っていました。しかし、この『Alone (Again)』からは、孤独感や陰鬱な雰囲気はあまり感じられないという印象です。このあたりは聴く方によって印象は変わるかも。
もうひとつの大きな特徴は、収録曲がすべてスタンダードで構成されている点。オリジナル曲は一切なく、どれもBill Evansが以前から演奏してきたレパートリーが中心です。たとえば、Dave Brubeckの「In Your Own Sweet Way」は1962年の『How My Heart Sings!』で録音済み。つまり、このアルバムでは長年弾き込んできた曲をソロピアノでじっくりと掘り下げていると言えるのかなと。
そして、最大の聴きどころはラストの「People」。13分を超える大作で、Bill Evansがこの曲を録音したのは、私が把握している限りこのときのみ。ジャズ的な即興というよりは、ワーグナー的とも評される重厚な展開で、音色のグラデーションや転調を駆使しながら壮大な物語を描いていきます。
プロデューサーHelen Keaneによれば、Bill Evans本人はソロ録音を「最も不安を感じる領域」と語っていたそうです。それでもこの作品に挑んだのは、彼の音楽探求心の表れであり、同時に「自分自身と向き合う作業」でもあったのだと思います。
初心者にオススメできる?
正直にいうと、このアルバムはBill Evans初心者には少し難しいかもしれません。収録曲の多くは日本ではあまり馴染みのないスタンダードで、派手な聴きやすさはありません。ソロピアノでBill Evansを聴きたいなら、『The Solo Sessions Vol.1 & Vol.2』のように「My Favorite Things」や「Santa Claus Is Coming To Town」といった有名曲を含む作品のほうが入りやすいでしょう。
ただ、Bill Evansの音色の変化や後年のスタイルをじっくり味わいたい人には、『Alone (Again)』はとても貴重な記録です。同時期の未発表テイクを集めた『Eloquence』とあわせて聴くと、この時期のソロ演奏像がさらに立体的に見えてきます。
Pick up!!
1.The Touch Of Your Lips
『At The Montreux Jazz Festival』のトリオ演奏でも、冒頭3分はほぼソロピアノ。このアルバムの演奏は、その部分を拡大したような趣があり、内省的ながらも豊かな響きが楽しめます。
4.What Kind Of Fool Am I
1960年代の『The Solo Sessions』でもソロで録音しており、演奏スタイルの変化を比較できる一曲。初期の軽やかさと、このアルバムでの熟成された響きを聴き比べるのはファンなら必見。