『ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング』ビル・エヴァンス
『You Must Believe In Spring』Bill Evans
収録曲
1. B Minor Waltz (For Ellaine)
2. You Must Believe In Spring
3. Gary’s Theme
4. We Will Meet Again (For Harry)
5. The Peacocks
6. Sometime Ago
7. Theme From M*A*S*H (aka Suicide Is Painless)
Bill Evans (p)
Eddie Gomez (b)
Eliot Zigmund (ds)
録音:1977年8月23日~25日
レーベル:Warner Bros.
ディスクガイド
後期Bill Evansの大傑作と思っています。
3ヶ月前に同じメンバー、同じ編成で録音した『I Will Say Goodbye』とは似て非なる空気。
抽象的な表現になってしまいますが、こちらはアルバム全体を通してずっしりとした芯のようなものを感じます。
『I Will Say Goodbye』にも、好きなテイクはいくつかありますが、こちらの作品は、アルバム全体を通して好きって言いたい。
はっきりとテーマが提示されているわけではありませんが、「コンセプト・アルバム」としての完成度が高いと思うのです。絶妙な選曲。
ジャズの歴史的に革新的なアルバム、というものではないけれど、晩年に、また一段階変化したBill Evansの演奏が聴ける1枚です。
初心者にオススメできる?
よく演奏されるようなスタンダード曲はほぼありません。
時代的にも、70年代後半ということで、ドラムやベースのリズムの刻み方も聞き馴染みのある「普通のジャズ」とはちょっと違うのではないかと。というわけで、あまり初心者にはおすすめできません。
Pick up!!
2. You Must Believe In Spring
アルバムタイトルでもあるこの曲。
Michel Legrand作曲で、実は映画「ロシュフォールの恋人たち」の劇中曲です。
CMなどでもお馴染み「Arrivee Des Camionneurs(キャラバンの到着)」や「Chanson Des Jumelles(双子姉妹の歌)」など有名曲も多い映画。
この曲は、劇中では「Chanson de Maxence (マクサンスの歌)」というタイトルだったんですが、後に英題と英詩が付きました。
1年前にはヴォーカリストのTony Bennettとのアルバムで歌伴をしています。
そこで何かピンとくるものがあったのかも。
7.Theme From M*A*S*H (Suicide Is Painless)
M*A*S*Hは、アメリカの映画。同名のテレビドラマ版でも、このテーマが使われていたようです。
作曲はJohnny Mandel。「A Time For Love」など、Johnny Mandelの曲を何度かEvansは演奏しています。
原曲はきれいなメロディラインではあるものの、短くてシンプル。
普通なら無理にジャズとして演奏しても良い結果にはならなそうなもの。
ところがかなり特殊なアレンジにしたことで、アルバムの最後を飾るのにふさわしい壮大な演奏になっています。
どんな構成になっているんでしょうか。テーマはたった16小節です。
*Gキー
テーマ
↓
テーマ終わりのマイナーコード(Em)で8小節のソロ
↓*E♭キーに転調
ドミナント(Fm7 on B♭)上で8小節のソロ
↓
テーマ
↓
Cmで8小節のソロ
↓*Bキーに転調
C#m7 on F# で8小節のソロ
↓
テーマ
↓
G#mで8小節のソロ
↓*Gキーに転調
Am7 on D で8小節のソロ
↓
最初に戻る
これの繰り返し。
G→E♭→B→G→E♭→B→・・・
長三度下への転調の繰り返しですね。
この曲は、この後ライブでもレパートリーとなるのですが、ライブでは大抵4ビート。
8.Without A Song
ボーナストラックです。
ボーナストラック無しのCDには収録されていないので注意。
本来は収録されていない曲なのでアルバム全体の空気感からは外れていますが(通して聴くときは7.の「Theme From M*A*S*H」で止めたい。)、資料的に楽しめるテイク。
なんと珍しい、ちょっとファンキーなリズム上でのアドリブ演奏が聞けます。この時代(以降)特有の、かなり4ビートに近いファンクのリズムではありますが。
そういうリズムの上ではどんな風に演奏するのか、それを知ることができる1曲です。